POOL - あ​る​日​の​あ​る​通​り

from つ​く​ポ​エ vol​.​1 by つくばポエムコア同好会

/

lyrics

それはかつて人々が相互を信頼し、それぞれの自由を尊重していた時代の話である。
積み重なる悪意による事件によって、お互いを信用できなくなった人々は、監視によって互いを牽制し合うようになった
かつての制裁をもってその抑止としていた時代は終わった。
各々の行動は制限され、監視され、そして記録されることによって平和を保とうとしたのだ。

夜道を一人の女が歩く。
都市部だと言うのに街頭などほとんど無く、闇に包まれている。
道の先から一人の男が歩いてきた。
コート姿のその男は、どこにでもいるような身なりをしている。
女は男の姿に目もやらず、ただぼーっと街路を歩いている。
男と女の距離が縮まっていく。
男はコートから鈍器を取り出した。
女性の悲鳴があたりにこだました。

女は十八になるまでひたすら勉強に励んできた。
周りのバカどもには目もくれず、参考書と向き合ってきたのだ。
念願の大学入試に合格し、今日がその入学式の日だ。
今まで遊んでこれなかった分、これからは人生を楽しんでやる。
そんな意気込みが女の瞳にはうつっていた。

男は今日リストラを宣言された。
ただ闇雲に会社のために働いてきたのにだ。
不景気の煽りというやつらしい。
男にはかつて家族がいた。
多くは語らないが、今はその家族もいない。
もういっそのこと、一人道連れにして同じ絶望を味あわせてやろう。
そんな意気込みが男の瞳にはうつっていた。

女は入学式後、初めての友だちができた。
あまりにも話すことが楽しくて、近くのカフェで話し込んでしまった。
男はコンビニでビールを買い、家でアルコールを浴びた。
手に持ったハンマーを眺め、決心をし、それをコートに忍ばせ、街へと繰り出した。

男に頭を強打され、女は道に倒れた。
血の海がゆっくりと広がった。
倒れた女をじっと見つめ、しばらくの間駆け巡る罪悪感に身を任せたあと、男はそこから足早に立ち去った。

男が去ったあと、女はふらりと立ち上がった。
そしてどこかに歩いていった。
致命傷にはならなかったようだ。
後日男はテレビで、女が死んでいないことを知る。

ほっとした男は、警察署へ向かった。

credits

from つ​く​ポ​エ vol​.​1, released January 18, 2017
music&lyrics:POOL
mixing:k.TAMAYAN

license

all rights reserved

tags

If you like ある日のある通り, you may also like: