k​.​TAMAYAN&k​.​TAMAYAN​の​父 - 世​界​の​終​わ​り​に​、​千​円​札​を​握​り​し​め​て

from つ​く​ポ​エ vol​.​1 by つくばポエムコア同好会

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lyrics

僕が十二歳の時、核戦争が始まった。
一発の誤射が原因らしいが、詳しいことは知らない。
とにかく、それは起きたのだ。
核の炎は様々な都市を破壊し、瓦礫の山と放射性物質だけが残った。
SF映画みたいに。
でも、映画のように世界は滅びなかった。
それは、とてもとても時間のかかることなのだ。
だらだらと無駄な抵抗を続ける僕ら。
「死んでもいいや」という気持ちと、「生きていたい」という本能。
その二つの狭間で、今日も生き続ける。
気がつけば僕は二十歳だ。
昔なら成人式なんてものに参加させられていたに違いない。
成人、か。
この世界に子供はいない。
少なくとも、無邪気で純粋な子供などいない。
生き残るのは、人を出し抜けるやつらだけだ。
僕もまた、その一人だった。
今、ズボンのポケットに千円札が一枚入っている。
前にどこかで拾ったのを、お守りがわりに持ち歩いている。
もちろん、生活の役には立たない。
食料の配給は、かれこれ一週間は止まったままだ。
再開の兆しはない。
路上にあふれるのは、生きているのかどうかもわからない人たち。
僕はまだ、二本の足で歩いていける。
でも、体が元気なやつは大抵気が狂っている。
僕もきっと、狂っているに違いない。
少女がずっとこっちを見ている。
僕は意図的に目を合わせる。
僕らは立ち止まって目を合わせ続ける。
無言で手を差し出す少女。
無言で薄ら笑いを浮かべる僕。
お嬢さん、人を甘く見るんじゃない。
心の中で呟く。
僕はずっと少女の目を見つめている。
その目には、まだ光がある。
突然、気の狂った男が叫び声をあげる。
僕も少女も、その程度では微動だにしない。
腹が減った。
今は水しか持っていない。
薄汚れた水筒に、薄汚れた水が入っている。
それも、ほんの少し。
少女とのにらめっこはこれで終わりだ。
何か、食べられるものを探さないといけない。
僕は目をそらして歩き出そうとする。
すると、少女が駆け寄ってきた。
僕の服を、力一杯つかむ。
でも、彼女は何も言わない。
お互いに、何も言わずともわかっている。
僕の力ではどうにもならない、ということも含めて。
僕はポケットの千円札を握りしめる。
ああ、わかったぞ。
この千円札は僕なんだ。
彼女にとって、僕はそういう存在なんだ。
期待するだけ無駄な、希望。
人は、たとえ無駄だと知っていても、何かにすがりたがる。
そういう生き物だ。
僕は、覚悟を決めて水筒を手に取る。
薄汚れた不味い水を、一気に飲み干す。
水筒が空になったことを、少女に示す。
彼女は唇を一文字に結んだまま、僕をにらむ。
「悪いね、もうおしまいだ」
僕はそう言い放つ。
彼女は、僕の服から手を離す。
それだけだ。
本当に、それだけだろうか?
上着のポケットに、ずっと開けていないガムがあったはずだ。
僕は上着を探ってみる。
ガムは確かに、そこにある。
ガムを開封する僕を、少女が見ている。
ガムの匂いを嗅ぐ僕を見ている。
僕は、ガムを一枚口に入れる。
うっすらと味がする。
気がつくと、少女の手にもガムがある。
彼女はそれを口に入れる。
無言でガムを噛む僕ら。
いつの間にか、少女は姿を消す。
僕はまだ、遠くを見ながらガムを噛んでいる。
世界の終わりに、千円札を握りしめて。

credits

from つ​く​ポ​エ vol​.​1, released January 18, 2017
music:k.TAMAYAN
lyrics:k.TAMAYAN&k.TAMAYANの父

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